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裏・所有権(後)





「力を抜け」
言うと同時に、濡れそぼったルキアの裂け目に、熱い強張りが押し付けられる。くちゅりと卑猥な音を立てて、ゆっくり、ゆっくりと強張りはルキアの中に押し入った。
「や…ああん…っ」
ただでさえ小さなルキアの子宮は、緊張と官能でびくびくと波打ち、阿近の欲望を締め付ける。吸いつかれるような感覚に、阿近が苦しげに息を吐いた。
「おい、そんなに締めるなよ」
「そ、そんなこと…言われ、ても…」
息が切れ切れになりながら、ルキアが潤んだ目で見上げる。そのまま阿近が動き始めると、長椅子がぎしりと音を立てた。




「あ…あぁ…あ…っ」
そう広くない部屋に、ルキアの切なげな声と、長椅子の軋る音、そしてぐちゅぐちゅと交わる音が響く。
「あこん、あこん、あこん…っっ」
それでいて絶えず名を呼び続けるのだから、たまらない。
ルキアの声と息遣い、柔らかな皮膚と香りに包まれて、阿近はまるで催眠術にかけられたように、深く深くルキアに沈んでゆく。
―嗚呼。
阿近は、嘆息した。
「もう、駄目だ」
思わず漏れた言葉は、快楽の波に揺られているルキアには聞こえていない。
もう、駄目だろう。
この快さを知ってしまったら。
この倒錯を覚えてしまったら。
どんな義骸よりも美しい、理想とも言える身体をもてあそび、一つに繋がり、同じ悦欲を味わう―
そんなことを覚えてしまっては、抜け出すことなど不可能だ。
依存性のある毒のように、覚めることなくルキアに溺れていくのが、阿近には分かっていた。




ルキアが達してしまわないように伺いながら、阿近はゆっくりと、執拗に攻め立てる。
薄い胸郭が、せわしく上下している。しゃくりあげるように息を吸っては、鼻にかかった高い声で喘ぐ。
「だめ…あ、あぅ…っ」
ルキアは白衣の両袖にしがみつくと、目の端に涙を溜めたまま懇願した。
「あ、あこんっ…もう…限界…っ」
「努力しろ」
「…っ」
ルキアが、下唇をぎゅっと噛む。
そう言われて、素直に耐えようとするルキアの真面目さが、阿近にはたまらなく愛おしい。
焦点を失いかけている紫紺の瞳、崩れ落ちそうな白い肢体、その深い美しさを目に焼き付けながら、阿近は動きを早めた。
恍惚の気配が、二人を襲う。
ひときわ甲高い声で、ルキアが名を呼ぶ。応えるように強く腰を打ち付けると、ルキアの内側がきゅうと収縮する。
「ああっ、い…いくっ…あこんっ」
耐えられなくなったルキアが叫ぶのと、熱いほとばしりがルキアの中に放出されたのは、ほぼ同時だった。
脳の髄まで溶けるような、甘美な波の余韻に揺られて、ルキアはそのままくったりと意識を手放した。








ぼんやりと、見慣れた天井が視界に映った。
と同時に、嗅ぎなれた煙草と薬品の匂いが、体を包んでいることに気づく。
す、と深く息を吸うと、次第に頭がはっきりとしてくる。ルキアは今、阿近の部屋の長椅子に、白衣をかけられ横になっていた。




淫靡な夢を見てしまったのか、と考えてルキアは、体の奥がじんじんと痛むことに気づいた。
―やはり、私は体を許したのだ。
首だけを動かすと、すぐ傍らに阿近の背中があった。床に座り、長椅子に背中を預け、何か紙の束を読む手元が見える。
少しだけ見える横顔は穏やかで、おそらく書類ではなく、好きな論文でも読んでいるのだろう。



白衣を脱いだ阿近は死覇装姿で、白ではなく黒をまとった背中は、いつもよりたくましく見える。ふと手のひらに、その背中の感触を思い出してしまい、ルキアは頬が熱くなるのが分かった。
―何を、考えているのだ私は…
白衣を頭からかぶってしまおう、ともぞもぞと動いていると、衣擦れの音に阿近が振り返った。
「起きたか」
阿近の声は、行為の最中と全く変わりがなかった。それがまた、ルキアに先ほどの痴態を思い出させて、余計に恥ずかしくなる。
「あ、阿近…」
「何だ」



冷静さを崩すことの少ない阿近は、次の瞬間、手にしていた物を全て取り落とすことになる。



「阿近」
「どうした」






「もういっかい」










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