裏回廊目次

裏・所有権(前)





乏しい明かりの中で、二人の体温が混ざり合う。
けれども軽く触れ合わせただけで、阿近の唇はすいと離れた。
「まぁ、それなら」
見つめるルキアの視線の先で、爬虫類を思わせる両目が危険な光を宿す。
「従者は従者らしく、主人に仕えるとするか」
にやり、と阿近の薄い唇がつり上がる。次の瞬間、ルキアの視界が反転した。




目に入ったのは、研究室の薄暗い天井だった。
机のすぐ横にある、古ぼけた長椅子にルキアは仰向けに転がされていた。受け身をとって体を固くしたままのルキアを、投げ転がした本人は何事もなかったかのように見遣る。
阿近は机の上にある小さな機械を手にすると、さっと額にかざした。すると3本の角、その下にあった朱い印鑑の跡がたちまち消える。
「…消えた?」
「開発したのは俺たちだ。消せない物なんて作ると思うか?」
驚くルキアを見下ろして、阿近は子供に諭すように、小さく笑った。
「甘噛み、くらいは許せよ」
すっと白衣の腕が伸びて、無遠慮にルキアの死覇装の合わせ目を広げる。
「あ…阿近…っ」
抵抗するルキアの、耳朶から首筋、鎖骨に沿って、阿近の指がするりと動く。
「あ…こ…」
鬼道でも使って吹き飛ばしてやろうと思ったルキアは、しかし、見上げた男の目が思いつめたような真剣な目をしていることに気づき、思わず抵抗の手を止めてしまった。



不思議な触れ方だった。
その青白く無骨な手にルキアの全てを記憶するように、寸分の隙もなく、ゆっくりと撫でさする。
頭の頂、白い額、小さな顎、細い肩、淡い乳房、浮き出た肋骨、華奢な腕。
骨の曲がり、関節の窪み、皮膚の柔らかさ、その下で動く熱い血潮―
時折、触れるか触れないかという浅い口付けを肌の上に落とすだけで、決して深入りしてこない。
まるでそれ以上深く触れることを、恐れているかのように。
それでいて、時に強く、時に優しく動く指先は阿近の中で少しずつ膨らんでいく熱を伝えていて、ルキアを否応なく煽る。
お預けを食らっているようなもどかしさに、ルキアは思わず、阿近の口元に自分の唇を押し付けた。



阿近の動きが止まる。
が、それも一瞬のことだった。
すぐに、噛みつくように唇を吸われる。ぬるりと舌が絡んで、口の中に煙草の苦い味が広がる。



ようやく唇を離すと、肩で息をするルキアを前に、阿近は小さく舌打ちをした。
「くそっ」
驚いて目を丸くするルキアを、苛立たしそうに見下ろす。
「どうしてくれる?」
―気を抜くと、我を忘れそうになる。
だから、理性が残っているうちに、この体を記憶しようとしたのだ。それを、ルキアが破った。
「覚悟しろよ」
阿近は理性を保とうとする努力を放棄した。―否、もはや抗えなかったのだ。




覚悟、の意味をルキアが図りかねていると、しゅる、と布が擦れる音がする。ふと下腹が涼しくなった気がして見ると、帯を解かれ、死覇装の袴を下ろされていた。
無防備にさらされた両足。その間に、近づく阿近の頭があった。
「や…っ!…駄目だ、駄目だ阿近っ!」
何をされるのかに気づいて、慌てて閉じようとした両足を、ぐいと押し広げられる。
「隠すな」
阿近が、その手首にも満たないような細い両足を、肩の上に抱え上げる。大事なところがあらわになる、その恥ずかしさにルキアがぎゅっと目を瞑った。
温度の低い指先が、ルキアの両腿の間の茂みをそっと掻き分け、その奥に隠されていた裂け目を開いてゆく。
「い、いや…っ」
体をひねって逃げようとしても、腿をしっかり押さえられていて、動くこともできない。
ためらいもなく、少し尖った舌先が、ルキアの襞の両筋を舐め上げた。
「んん…っ…」
誰にも触れられたことがない場所を、生き物のように蠢く舌が上下する。
舌は器用に襞の内側をまさぐり、薄紅に開いた秘所の入り口をちろりちろりとくすぐる。経験したことのない甘い刺激に、ルキアの細い体がびくりと跳ねた。焼け付くような熱が、じわりじわりと下腹から体中に広がってゆく。
「あ…ああ…っ」
ちゅぱ、と音が立つたびに、恥ずかしさで涙が滲む。それなのに、もっと深く、もっと強く、と望んでいる自分に気がついて、ルキアは目を瞑ったまま顔を逸らした。
それでも阿近の短い髪が内股に当たり、いま自分がされていることを、容赦なく突きつける。



「ここが好いんだろう?」
そう言うと阿近は、襞の内側でぷっくりと膨らんだ肉蕾を、やんわりと甘噛みした。
「っひ…っ」
ルキアの華奢な体が、大きく痙攣する。その瞬間、ひくひくと震えていた秘所の入り口から、とろりとした粘液が溢れた。
蕾を噛んでは放し、ねっとりと舐め上げ、また噛む、を阿近が繰り返すうちに、粘液は次から次へと溢れ出す。
「あっ…あっ…っ」
着物の上衣をはだけたルキアは、まるで失禁したかのように長椅子を濡らし、押し寄せる悦楽に我を忘れて喘ぐ。
「濡れたな」
阿近が体を起こす気配を、ルキアは呆然と脱力したまま感じていた。
頭も体も溶けたように鈍く、それでいて阿近のすること一つ一つに敏感に反応してしまう体を、ルキアはもうどうすることもできなかった。










裏回廊目次


Copyright(c) 2012 酩酊の回廊 all rights reserved.