裏回廊目次

淡雪記・着物にまつわる嫉妬〜盗賊・狐火のギンの場合〜(後)





組み敷いたルキアの目が、怯えて揺らめく。
ふと思い立ったギンは放られていた兵児帯を拾うと、ルキアの両目を覆って、しゅるりと頭の後ろで結わえた。
「何を…っ」
解こうと伸ばしかけた細い手を奪い、畳の上に押さえつける。
「他のもんなんて見んでええ。ルキアちゃんは、僕のことだけ感じとき」
命じるように言うと、唇を塞ぐ。
「ふ…んんっ…」
ぶるり、とルキアの体が震える。そのまま深く舌を挿し入れると、ルキアの両腕からは呆気なく力が抜けた。歩き疲れて火照った身体に、ルキアの冷たい肌が心地いい。
むさぼるように唇を吸いながら、柔らかい乳房を撫で回す。すぐに、唇の合間から漏れる吐息が、甘く切なげな声に変わった。
いつも敏感なルキアだが、それにしても、反応がやけに早い。
「だめだ、ギンっ…何か…変だ…っ」
自分の体の異変を感じて、ルキアが戸惑った声を上げた。




塞がれた視覚を補うように、耳と皮膚の感覚が鋭くなる。
互いのぬめる唾液の音が、いつもより大きく聞こえる。
盲目の暗闇のなか、ルキアが縋ることができるのは、ギンの肌の温もりだけだ。



それでいて、次にギンが何をしようとするのかが、分からない。
首筋かと思えばみぞおちに、そして次は内腿に、唇が熱く押し付けられては柔らかい肌を吸う。
ちりりとした痛みが刻まれるたびに、経験したことのない愉悦が体中をめぐる。
ただ見えない、というだけで抗うすべもなく、ギンの指に、唇に、翻弄されている。
眩暈に飲まれるように、ルキアは全てを無防備にギンに委ねるしかなかった。



痺れる快感が、経験したことのない速さでルキアを襲う。
くらくらとし始めた頭に戸惑っていると、長く無骨な指がするりと股の間に割って入った。
「ひ…ああっ」
慌てて両腕を伸ばし、ギンにしがみつく。ルキアの手のひらの下で、汗ばんだ男の肌が蠢く。
「いつもより濡れてるやないの」
不意にかすれた声が耳元で呟き、その言葉と吐息に体中がかっと熱くなる。
「う、嘘ばかり…っ」
「嘘やないよ、ほら」
ギンが少し指を動かしただけで、ルキアは苦しげに悶え、秘所はじわりと湿り気を帯びてくる。
強がりなルキアの言葉とは正反対に、実はその体はとても正直で、いつも以上の感度でギンに応えていた。



何も見えないから、不安でたまらないのだろう。
ルキアの指先が、確かめるようにギンの身体をまさぐる。好いところをギンに刺激されるたびに、小さな悲鳴を上げて、覆いかぶさる背中に爪を立てる。
その甘い痛みが、ますますギンを煽るとも知らずに。




不意に、ギンはすっと体を離すと、ルキアの華奢な体を見下ろした。
「ギン…?」
口付けで赤く腫らした唇で、名を呼びながら、両手を不安げにさまよわせる。温もりが離れた体に、夜の空気が冷たい。
すみれ色の帯の下では、同じ色をした瞳が、潤んで揺れていることだろう。
蝋燭の灯りの中に真っ白な体を横たえ、畳の上に淫らな染みを作るこのが、今、自分の為すがままになってる。
ギンは獰猛さを隠さず、うっすらと口角を吊り上げた。
所詮、あの程度の春画が、かなうはずもないのだ。




立ち上がっていた欲望が、痛いほどに膨らむ。急かされるように、ギンは下腹部をルキアの性器に押し付けた。
「は、ん…っ」
びく、とルキアの身体が跳ね上がる。ためらわず、ギンはそのまま一気に秘宮の奥へと貫いた。
「あ、ああああ…んっ」
悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げて、ルキアの体が強張る。と、途端に白い体は力をなくし、陶然と弛緩したまま、薄い胸を懸命に上下させて喘いだ。
「は、はぁ…お、奥…突いてる…」
どくどくと脈打つギンの熱が、体の芯に届いているのを感じる。ルキアの内側の感覚も、いつもよりずっと鋭くなっていた。
「目、いっつもふさいだほうが良えかもなぁ」
くす、とギンが笑うのが空気で伝わった。
ギンの顔が見えないのは嫌だ。けれども―。
良い、とも嫌、とも言えず朦朧としているルキアを揺り起こすように、ギンはゆっくりと動き出した。
「ふ、あぁ…ああっ」
出し入れする動きに合わせて、ルキアの襞はみっちりとギンを締め付ける。
深く攻め立てられることに耐え切れず、嫌々をするようにかぶりを振ると、結んだ帯の先がふわふわと揺れた。
「ギ、ギンっ…だめ、い、いい…っ」
灼熱のような大きな波が、体の真ん中から体中へと広がってゆく。
舌を深く吸われて、息をすることも苦しい。
頭の奥がぼうっと霞んで、ここが何処なのかも分からなくなってくる。
「もう良えな?ルキアちゃん」
言うと同時に、ギンの動きが早くなる。ギンに伺われても、ルキアにはもう、声すら出なかった。
「ひ、あ、っ…ああああ…っ」
「――――くっ」
内側に温かいものが満ちて、とろりと溢れ出る。
最後にそっと交わされた口付けがひどく優しくて、ルキアはぼんやりと、それがいつものギンの癖であることを思い出していた。












目隠しの兵児帯を解くと、ルキアの大きな目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
少しだけ驚いたギンに、くったりと横になったルキアはすがるように尋ねた。
「どうしたら、私を信じてくれるのだ」
「僕はルキアちゃんを疑ったりせえへんよ」
「へ?」
「ルキアちゃんが、他の男と寝るわけないやん」
「だって…」
「僕ら、こんなに相性良えのに」
「じゃ、じゃあ」
「ルキアちゃんをこーんな風にさせてあげられるんは、僕だけや」
「じゃあ、い、今のは…」
ギンは汗で張り付いたルキアの前髪をすくいながら、にっこりと笑った。
「あの絵見てたらなぁ、ルキアちゃんのこと思い出して、むらむらっと来てしもて」



りり、と庭で虫が鳴く。
一瞬の間があって、細い腕と握り拳がギンに振り下ろされた。
「き、貴様!紛らわしいことを!!」




部下たちが盗みから戻ってきた時、顔を真っ赤にして怒るルキアと、それを飄々となだめるギンの姿があった。 つまりはいつも通りの、ごくごく穏やかな夏の夜だった。










いつもお世話になりっぱなしの、kokuriko様への捧げ物です。
こ…こんなものしか捧げられない私を許して…。そして!さらにkokuriko様がこのお話に続く素敵な番外編を書いて下さいました!(しかもたった数日で!!)
近々upしますのでお待ちください!

裏回廊目次


Copyright(c) 2011 酩酊の回廊 all rights reserved.