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イケ☆パラ第5話〜生徒会室〜





「あの、失礼します…」
小さな声が聞こえて修兵が入り口を見ると、小柄な生徒が立っていた。
「おう、どうした?」
「1年の朽木ルキアです。お願いがあって来たのですが…」
「お願い?俺に?」
「はい」




手招きで、中に入れと促す。いつも誰かが出入りしている生徒会室には、今は生徒会長の修兵しかいなかった。
「文化祭での女装を、辞退したいのですが…」
おずおずと切り出したルキアの名札を見て、修兵は手元の紙の束をめくった。
「ああ、1年A組で女装するのはお前なんだな」
こく、とルキアが頷く。
聖・霊廷学園の文化祭では、クラスごとに企画を考え、さらにクラスから一人だけ、女装させることになっていた。
「でも、クラスの推薦で決まったんだろ?」
「そうですが…やはり私には荷が重いですし、他の方のほうがいいのではと…」
ルキアの声は弱弱しかったが、凛としていた。
「友人に相談したら、文化祭のとりまとめは生徒会長なので、生徒会長に直談判するしかない、と言われまして…」
入学したばかりの1年生が生徒会長に直談判する、というのは余程の勇気だ。あるいは、それほどまでに辞退したがっているのか。
けれど修兵は、あっさりと建前を口にした。
「クラスの総意で決まったんだ、俺が勝手に変えることはできねぇよ」
「そ、そんな…!」
ルキアの大きな目が不安げに揺れる。
「なんでそんなに嫌がるんだよ?B組の山田花太郎なんか、ピンクのドレス着て、にこにこしてたぜ」
茶化すようにいった修兵の言葉に、ルキアは顔をかっと紅潮させた。
「お、男が女装して嬉しいはずありません!!」
「着てみたら、案外似合うかもしれねぇじゃねぇか。A組は確か…」
1年A組の企画書をめくって、修兵はにやりと笑った。
「喫茶店、か。他の野郎はギャルソンの恰好で、お前だけメイド服か。へーえ…」




少し考えて、修兵は立ち上がった。
「ちょっと待ってろよ」
生徒会室の奥に積み上げられた段ボール箱を、ごそごそとかき回す。「あったあった」の声と共に修兵が取り出したのは、黒いワンピースと、白いレースのエプロン―
それを見た瞬間、ルキアの顔がさっと青くなった。
「ひいいい!な、なんですかそれ!?」
「何って…去年の文化祭で使ったメイド服。お前、着てみろよ」
途端に、ルキアはドアへと踵を返した。すかさず追いかけて、修兵はその細い腕をしっかりと掴む。
「い、嫌ですっ!失礼しま…って、放して下さい、生徒会長っ!!放して下さいっ!!」
「いいからいいから、制服の上から被ってみろよ」
「やめて下さいっ!!」
事情を知らない人が聞いたら、生徒会長が発情したと思われかねない騒動がしばらく続いて、
「ほら見ろ、結構…」
似合ってるじゃねぇか、と言いかけて、修兵は言葉を忘れた。
目の前にいたのは、髪を乱し、肩で息をしながら、涙目になって床にへたり込むメイド―
修兵の顔がぼっと萌える、もとい燃えるのが分かった。




以後、生徒会長 檜佐木修兵は、「俺ってホモなのか?!」と青い悩みの渦にはまることになる。










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