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赤ずきんちゃん





昔々あるところに、小さな可愛い女の子がおりました。
それは誰だって、ちらりと見ただけで心奪われてしまうような女の子でしたが、この子のお兄様ほどこの子を可愛がっている人はなく、この子を見ると何もかもやりたくてヤリやりたくて、一体何をやっていいのか分からなくなるくらいでした。

それで、ある時お兄様は、家が何件も建つような高級な赤い布で、この子にずきんを仕立ててあげました。
すると、それがまたこの子によく似合うので、もう他のものは何も被らせない、とお兄様は決めてしまいました。そこで、この子は赤ずきんちゃんと呼ばれるようになりました。




ある日、お兄様はこの子を呼んで言いました。
「ルキア、ここへ」
「はい、兄様」
「ここに朽木家謹製のお菓子が一つと、養命酒が一瓶ある。これを浮竹のところへ持って行け。聞けば、浮竹はまた寝込んでいるらしいが、これを与えれば多少は持ち直すであろう」
「兄様、ありがとうございます。きっと浮竹隊長も喜ばれると思います」
「(ぼそ)…いっそ死んでくれれば良いものを」
「兄様?」
「何でもない。ではルキア、日に焼けぬよう、暑くならぬうちに出かけなさい。それから外へ出たら、朽木家の者として礼儀作法を気をつけよ。またやたらに、知らぬ横道へ入ったりするものではない。そのようなことをして転びでもしたら、大切な身体に傷がつく―いや、せっかくの瓶は壊れ、浮竹に渡す物もなくなる」
「はい、兄様」
「それから、浮竹の部屋に入ったら必要以上に丁寧に朝の挨拶を述べ、貴族としての格の違いを見せるのだ。そう親しげに近寄ってはならぬ。温厚な顔をして、彼奴も何を企んでいるか分からぬからな。それから」
「あの、兄様。後半よく聞き取れませんでしたが、もう行かなければ真昼になってしまいます」
「う、うむ。そうだな。では行ってきなさい」
「はい、それでは行って参ります」




ところで、浮竹隊長のおうちは朽木家の屋敷から離れた森の中にありました。
赤ずきんちゃんが森に入りかけると、狐がひょっこり出てきました。赤ずきんちゃんは、狐がどんな悪いけだものなのか知っていましたから、とても気味悪く思いました。
「赤ずきんちゃん、こんにちはー」
と狐は言いました。
「おはようございます、市丸隊長」
「こんな早うから、どこ行くん?」
「浮竹隊長の所へ行くのです」
「腕に何抱えてるん?」
「お菓子と養命酒です。浮竹隊長がまた寝込んでおられるので、お見舞いにと兄様が下さったのです」
「浮竹隊長のおうちはどこなん?」
「ここから何里か歩いた森の奥です。市丸隊長はご存知ありませんか?」



狐は、心の中で考えていました。
(相変わらず、ちっこくて柔らかそうな子や。ほんまにおいしそうやなぁ。隊長さんも別嬪さんやったけど、やっぱりこっちの方がずっとええわ)
そこで狐は、しばらく赤ずきんちゃんと並んで歩きながら、道々こう話しました。
「赤ずきんちゃん、そこらへんに咲いてる花、綺麗やなぁ。小鳥もいい声で唄ってる。なのに赤ずきんちゃんは全然聞いてへんみたいやね。任務に行く時みたいに、難しい顔して歩いてるわ。僕はこんなに楽しいんやけどなぁ」
そう言われて、赤ずきんちゃんは



(何が難しい顔だ!貴様のせいだこの狐が!)



と思いました。
ただ、兄様からもらった物だけではなく、自分でも浮竹隊長に何かあげたいとも思いました。
そこで、
「では私は、ここで花を摘んで浮竹隊長に持って行こうと思います。まだ朝早いので、時間には間に合いますから」
と言って、ついと横道から森の中へと入ってしまいました。
そうして一つ一つ花を摘むと、その先にもっと綺麗なのがあるような気がして、だんだんと森の奥へと誘われていきました。




ところが、この間に狐は瞬歩を使って、浮竹隊長のおうちへ行きました。
そして、とんとん、と戸を叩きました。
「おや、誰だい?」
「赤ずきんちゃんや。お菓子と養命酒をお見舞いに持って来たから、開けて欲しいんやけど」



「―双魚のお断り!!!」




赤ずきんちゃんは、お花を集めるだけ集めて持ちきれないほどになった時、浮竹隊長のことを思い出し、またいつもの道に戻りました。
浮竹隊長のおうちへ来てみると、戸が木っ端微塵に壊れ、戸口には狐がぐったりと転がっていました。
赤ずきんちゃんは



「この腹黒狐」



と呟くと、狐の身体を飛び越えて
「おはようございます、隊長」
と浮竹隊長に親しげに寄っていきました。
お花を両手いっぱいに抱えた赤ずきんちゃんを見て、浮竹隊長はとても幸せな気持ちになりました。





冒頭、固有名詞以外はほぼ原文のままという衝撃。

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