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名も無き哀歌・壱





元々虚だった俺たちは、埋めようのない空洞を抱えている


なぜ虚になったのか、その理由はもう思い出せない
だが、身体の奥底にぽっかりと口を開く空白は、
絶えず俺たちを恐れさせ、脅かし、せきたて、苛立たせる


死して魂魄になった際に無くしたもの
存在の原初に運命付けられた欠落


その恐怖を押さえ込むために、或る者は無口に、或る者は能弁に、そして誰もが強さを求めた


この欠落を
この空虚を
虚として新たに生まれた際に失われた何かを
埋めるものが必要だ
埋めなければ苦しすぎる


ああ だから 俺たちは探し続ける


強いもの
美しいもの
ゆるぎないもの
絶対と呼べる存在


求めていたそれが、こんなに小さな
―しかも死神だったとは


その小さな足元にひざまずく
その紫紺の視線にひれ伏す
その絹の肌に触れる
その存在に、求めていた全てを見る


そして俺は その魂を喰らう日を夢想する
啼きたいほどに飢えた空洞を お前が埋めていく
身体中に溢れる光 五感に満ちる熱
その恍惚と安らぎ


そうだ俺は 神よりも世界よりも
お前という存在を信じる



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