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続・背信行為





「ん…あ」



音も立てずに口付けを落とす。
額に、頬に、耳に、指先に。
柔らかく触れた唇は風邪のためか、僅かばかり熱い。






日が落ちてから白哉が部屋を訪れた時、義妹は既に臥せっていた。
だが寝付いてはいなかったのか、障子の閉まる音にうっすらと目を開く。
昼間の出来事で何かしらの予感はあったのだろう。
静かに近づき、布団を捲り、夜着の合わせ目を開く白哉の手を、ルキアは拒みはしなかった。






白哉が置いた蝋燭の灯りに、白い身体が浮かび上がる。
不安げに見上げる瞳が、灯に照らされて美しい。
体中に口付けの雨を降らせる義兄に躊躇いながらも、ルキアは少しずつ息が熱くなってくるのを隠しようがなかった。




内腿をなぞる義兄の指先に荒々しい熱を感じ、夜着の端を握るルキアの指がびくりと震える。白哉が細い膝を割り、柔らかな脚の間に指を滑らすと、そこはやがて訪れる劣情の予感に濡れていた。
「や…ぁ」
思わず漏れた声に、白哉の欲が高まる。
はやる思いを抑えて硬く猛る先端を押し込むと、ルキアは一瞬身体を硬直させ、美しい顔をしかめた。
「い…痛っ」
「痛いか」
頼りない灯りに照らされた顔は、痛いとは決して言わない。しかし、きつく噛んだ下唇が震えている。
「案ずるな、じきにくなる」
慰めるように唇を重ね、ゆっくりと身体を沈める。身を割る痛みに耐え切れず、唇の隙間からルキアの溜息が漏れる。
「ん…んんっ」
華奢な身体が跳ね上がりそうになるのを、白哉は柔らかく押し付けた。



「ルキア」
耳元で名を呼べば、ルキアの内側は応えるように締まる。
白く滑らかな首筋に、口付けを落とす。
大きな手が鎖骨をなぞり、仄かな胸のふくらみをもてあそぶ。
「は…あ」
「ルキア」
そうしながら、白哉はゆっくりと身体を動かし始める。
「あ…んっ」
小さなルキアの体は、白哉の熱を飲み込むように包む。
ふと響いた卑しい水音におののくように、蝋燭の灯が一瞬、揺らいだ。
「ルキア」
「はぁっ…ぁん」
「ルキア」






ルキア、ルキア。




足りない。
幾ら名を呼んでも足りない。
愛しい、と思う。
この小さな存在を、ただただ愛しい、と思う。
この想いは、どれだけ名を呼べば伝わるのだろうか。
どう名を呼べば、伝わるのだろうか。




「あっ…あぁっ」




想いは目に見ることができない。
だが行動は目に見える。
ならば行動にして伝える以外にない。
行動としてぶつける以外にない。
愛しい、と思う全てを。
―せりあがるこの熱を。






「に…にい…さま」
白哉に身体を貫かれている、という感覚にルキアの意識はぼんやりと蕩けてゆく。
いっそのこと意識を手放してしまいたい。
このまま何もかも兄様にゆだねてしまいたい。
でもそんなはしたないことをしたら、兄様は嫌ってしまわれるだろうか。
うつろな視線で兄を見上げると、白哉は慈しむようにごく薄く微笑んだ。
「ルキア」
白哉の腰の動きが早くなる。
「にいさまぁ…っ」
救いを求めるように、小さな手が白哉へと伸ばされる。応えるように覆いかぶさった背中に、力の限りしがみつく。触れ合う肌に、互いの熱は上がっていく。


「ああぁっ」
白哉が身体の奥を突くたびに、ルキアの身体は壊れそうなほどに揺れる。そのたびに漏れる甘い声が、ますます白哉の熱を駆り立てる。




愛しい、と思う。
この声も身体も、しがみつく力も全てが愛しい、と思う。




「は…っあっああっ」




この腕の中だけで咲く花
この指だけに零れる夜露
人も知らぬ闇にただよう芳香




「ルキア…っ」




汗が混じる。
吐息が溶ける。
視線が交わる。
流れる黒髪が絡み合う。
大きなうねりが、近づく。




「ル…キアっ」
「に…にいさまっああああっっ」










「ルキア」
蝋燭の消えた薄明かりの中で、白哉は静かに名を呼んだ。
だが身を寄せるように白哉の隣に丸まったルキアは、くたりと脱力したまま返事がない。
額の髪を払い顔を覗くと、穏やかな寝息が漏れる。どうやら寝入ってしまったらしい。


汗ばむ細い身体をそっと抱き締める。
身体の奥に熱の余韻を宿したまま、白哉は冷たい目で闇を睨む。












邪欲と言いたければ言うがいい












もう、誰にも触れさせない














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