文章目次

one step closer









本誌ネタバレ含みます。OKな方のみどうぞ。






































傷口からどくどくと血が流れる
ノイトラの声が遠くに聞こえる
一護の野郎が何か怒鳴っている
痛みはとっくの前に感じなくなった
身体の感覚もやられちまったらしい






遠のく意識の中、思い出したのはあいつのことだ




ああチクショウ
こんな時に思い浮かぶのが女のことだなんて




いつから俺はこんなに腑抜けになったんだ?










少し前に、俺は現世に行った。
俺からすれば、ウルキオラ達のやり方はヌルくて仕方がねぇ。先に少しでも霊圧のある奴等を殺しちまおうと提案した俺に、シャウロン達もついて来た。―結局あいつらは殺されちまったが。




その時に一人の死神を殺した。
一護と一緒にいた、小さな女の死神だ。逃げようなんて抜かしやがるから、頭に来て素手で女の体に穴をあけた。穴あきの俺らが、死神に穴をあけるんだぜ。最高だろ?
女の体は薄くて脆くて、あっけないくらい簡単に右手が貫いた。暇つぶしにもなりやしねぇ。振り捨てた女は、腹から血を流して倒れたまま動かなくなった。ゴミみてぇなもんだ、と思った。








ノイトラに襲撃された時、とっさに思い浮かんだのは、あの時の女の姿だった。




流れる血。
驚いた表情。
言葉にすらならなかった呻き。
突然、目の前に現われた“死”。



ノイトラを責める気はねぇ。勝つために手段なんて選ばねぇだろ?俺だって同じ事をやってたんだ。








だけど。








ああチクショウ
あの女の血はもっと赤くてきれいだったなんて
あの体の温かさが右手に残って忘れられねぇなんて












女がアーロニーロと戦うのを俺は見ていた。




どう見ても女は負けていた。
アーロニーロは薄汚ねぇ能力を持った奴だ。あいつが使った顔は、女の知り合いの男の顔だったらしいが、そのせいかどうかは俺は知らねぇ。どっちにしろ、アーロニーロは9の数字をもらってんだ。力の差なんて始めっから分かってたようなもんだろ?




だが女は諦めなかった。
腕を斬られて、顔を殴られ、血を流しながら、それでも刀を離そうとはしなかった。何度も叩き伏せられて、そして何度も立ち上がった。霊圧が弱くなっても、動くことを止めなかった。
しぶとい女だ。
何を考えてるか分からねぇウルキオラとも違う。ごちゃごちゃ喋るルピとも違う。藍染の取り巻き連中の女どもとも違う。
目のすわった、獣みてぇな女だ。




仲間だったら面白かったかもしれねぇな、と思った。








俺は途中で一護の所に向かったから、あの女がどうなったのかは知らねぇ。
遠くに感じる女の霊圧は弱い。
でも勝ったってことだろ?
霊圧があるってことは、あいつは生きてるんだろ?












ああチクショウ
俺は何をやっているんだ
なんだこの情けねぇ姿はよ?








思い出せ、あの眼を
あの気迫を
戦う覚悟を




俺はグリムジョー・ジャガージャック
俺はこんな所で寝ているわけにはいかねぇんだよ








立ち上がれ
爪を軋らせろ
無駄口を叩かず
ただ闘え




あの女のように
あの女と同じように
一歩でも前へ
魂を貫け
















そんな男でなきゃ
あいつに顔を合わせる資格なんてねぇんだよ




















文章目次


Copyright(c) 酩酊の回廊 2007 all rights reserved.