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思惑はずれの対人形〜着物にまつわる嫉妬(その4)





四番隊第七席山田花太郎は悩んでいた。
この先二度とはあるとは思えない朽木ルキアと二人きりでのお出かけを前日に控え,自分はろくな私服(着物だから私着物?)を持っていないことに気付いたからであった。



護廷十三番隊の中で馬車馬のように働かされている四番隊の中でも七席という立場にありながら,花太郎の仕事量は半端ではなく,ほとんど連日隊舎で寝泊まりしているのが現状。
幸い支給されている死覇装は,何枚もあるので隊舎では困ることもないのだが,デート(と言ってもよいのだろうか?)に着ていくには死覇装姿と言うのもあまりに無粋である。



非番の時,花太郎は私服で歩いているルキアを時折見かけることがあった。普段のきりりとした死覇装姿の彼女も眩しい程に美しいが,私服の着物姿のルキアは更に見違えるほど女らしく愛らしく,普段とのギャップに声をかけることも出来ず,ただ見送るだけであった(常に隣に市丸ギンがいるせいでもあるが・・・)。
だからこそ明日はルキアの隣で恥ずかしくない自分でありたかった。市丸ギンと比べたら話にならない小柄で華奢な体の自分ではあるが,最後の思い出となるのなら,せめて男らしい自分を見せたかった。




なぜ花太郎とルキアが二人で出掛けることになったのかと言うと,話は数日前に遡る。
「花太郎,久しぶりだな。元気であったか?」
「ル,ルキアさん,こちらにいらしていたんですか。」
たまたま四番隊に書類を届けに来たついでに,四番隊休憩室に現れたルキアの姿を見て,花太郎は感激して駆け寄った。
毎日の激務の間のつかの間の休憩時間に会えるなど,神様のくれた僥倖としか思えず,花太郎は思わず涙ぐみそうになってしまった。
「ル,ルキアさん会えて嬉しいです。ホントに僕もう何と言っていいか・・・」
あまりの感激ぶりにルキアは不思議そうな顔で,花太郎を見つめた。
「どうしたのだ,花太郎?確かに最近おまえとなかなか会う折がなかったが,そこまで感激するようなことでもなかろう。」
花太郎はルキアに椅子をすすめ,お茶を淹れながらルキアに気付かれぬようにため息をついた。ルキアは,ギンがルキアの交友関係(男限定)に悉く手をまわしていることに,全く気付いていないらしい。
花太郎はまだ軽く因果を含められている程度だが,ルキアに近づこうとして再起不能寸前にまで追い込まれた死神が何人いることか・・・ギンをものともせずに近寄れるものなど数えるほどしかいなかった。
自分とて,ルキアが自分から会いに来るか,偶然に会わない限りルキアに近づくことは禁止されている。そして偶然に会ったときはギンに徹底的に邪魔されるので,このままではルキアに永遠に会えぬかもしれないと花太郎は,なかば本気で考えていたのだ。それだけにこの逢瀬にルキアがあきれるほど感激してしまうのも無理はなかった。



ルキアは花太郎のそんな思いも知らず,手渡されたお茶をひとくちすすると話を切り出した。
「実は,おまえに頼みがあってきたのだ。」
「なんですか?何でも言ってください!ルキアさんのためなら僕何でもします!!」
「そんなに畏まらなくともよい。もし,来週の非番の日に,おまえに時間があれば,私の買い物につきあってほしいのだが。――!?は,花太郎!!ど,どうしたのだ!!」
花太郎は直立不動状態でなかば失神しかけていたのだ。ルキアの声でようやく正気に戻ると,次の瞬間,思いっきり自分の頬をつねりあげる。
「痛たたたたた――――――っ!?ゆ,夢じゃない!!」
「な,何をやっておるのだ!?花太郎,大丈夫か?」
ルキアは慌てて花太郎の額に手をあてる。そのなめらかな冷やりとした心地よい感覚にかえって熱があがりそうになりながら,必死で息を整え花太郎は叫ぶように答えた。
「暇です!一日中だって空いています。どこにでもついていきます。」
「そ,そうか,ありがとう・・・。」
花太郎のあまりの剣幕に,ルキアはたじたじとなりながら礼を言った。 本当は,むこう1カ月は花太郎に非番などないのだが,たとえこの先2カ月休みが取れなくなったとしても,花太郎は来週の非番はもぎ取るつもりであった。



夢にまで見たルキアとのデート,しかもルキアの方からのお誘い,どんな障害があろうとも実現させる。ルキアと二人きりでいられるなら,ギンにあとでどのような目に合わされようとも本望である。花太郎は悲壮な覚悟を固め,薄い胸を反らした。
「で,どちらにお付き合いすればよいのですか?」
花太郎の問いかけにルキアは少しはにかんだような笑顔を浮かべた。その可愛らしさに花太郎は陶然となる。
「実は,その男性に贈り物をしたいのだが,私は男の好みがわからぬのでおまえに,あどばいすをしてほしいのだ。」



ガラガラガラガラガラ―――――。



「ん?何の音だ。」
「いえ・・・・・なんでも・・・」
あわれ花太郎の期待が,崩れ去った音とはルキアは知る由もない。
「市丸隊長への贈り物ですか?」
聞くまでもないことだが花太郎は力なく聞いた。
「う,うむ,私はあ奴からもらうばかりで,考えてみればあまりお返しをしたことがないのだ。だから・・・そのお中元のようなもので・・・!?な,なぜ,ギン・・・いや 市丸隊長へのものとわかったのだ?」
真っ赤になって慌てるルキアを花太郎は困ったような顔で愛おしげに見つめた。
ルキアが市丸ギンとつき合っていることが周知の事実であることを,ルキアはまるでわかっていない。そしてルキアがどれほどギンの隣で幸せそうに笑っているかということも・・・他の誰も間に入れないと,自分が二人の姿を見るたびに切ないため息をついていることも――。



「わかりました。お供しますね。でも僕なんかでいいんですか?」
「うむ,恋次に頼もうかとも思ったのだが,おそらくあ奴は真面目に選ぼうとしないだろう。兄様では多分予算を超えてしまう。浮竹隊長は・・・」
かつての恋敵(現在も?),阿散井恋次なら確かに真面目に選ぶどころか,とんでもない嫌がらせのようなものを勧めるだろうし,金銭感覚が常人とは異なるであろう朽木白哉なら自分の給付金で贈り物を買いたいルキアの希望とはかけ離れたものを選びそうだ(選んでくれたらの話だが)。浮竹に至っては,先月のお見合い騒動の噂を聞くにつけ・・・気の毒過ぎて花太郎は人ごとながら目眩がしそうである。
「わかりました。お役にたてるかどうかはわかりませんが,頑張ります。」
「そうか,ありがとう花太郎。それでは来週の非番の日に甘味屋『布袋屋』で十時に待ち合わせでよいか?」
「わかりました。楽しみにしています。」
「うむ。それでは当日会おう。私も楽しみにしている。」
ルキアの優しい笑顔,それが特別なものでなくても,花太郎の胸にはいつもあたたかな花が咲き乱れる。おそらくルキアとの最初で最後のデートになることだろう。
花太郎は去っていくルキアの凛とした背中を何時までも見守っていた。



物陰にさりげなく潜んでいた長身痩躯の影には全く気付かず・・・。








そんな経緯があって,花太郎が服装のことで悶々と悩みながらも執務室で器用に薬剤を嚢に詰めていると,後ろから声をかけるものがあった。
「山田七席,何か悩み事でもあるんですか?」
花太郎が振り向くとそこに立っていたのは四番隊第八席荻堂春信,荻堂は花太郎の隣に座ると,さも心配そうな顔で花太郎に問いかけた。
心底困っていた花太郎は二枚目でセンスもいい,この四番隊の別名『黒いいたずら心』と呼ばれる,この男に相談を持ちかけた。
「荻堂君はどこかセンスのいい呉服屋に心当たりありますか?」
「そりゃまあ,そこそこ心当たりはありますけど,なんでまた急に?見合いでもするんですか?」
荻堂の問いに花太郎は耳まで真っ赤になった。
「ち,違いますよ。明日大切な人と会って,買い物に付き合うだけなんですが・・・その死覇装じゃあんまりだから・・・」
「ふーん。山田七席も隅に置けないですね。察するにデートと言うところですか?」
「そ,そんな,デ,デートだなんて,そんなんじゃないんです!」
慌てる花太郎を,口元に悪い笑みをたたえながら見つめ,荻堂は口を開いた。
「まあ,急に呉服屋に行った所でその日のうちに着物を作れるものじゃないですからね。貸衣装屋に行ったらいかがです?コーディネートもしてくれて値段も格安ですよ。」
「えっ,そんなところがあるの?」
花太郎の目が輝く。
「ええ,僕の行きつけの所でよければ紹介しますよ。話もよろしければつけといてあげますよ。」
「ほ,本当?あああ,ありがとう荻堂君!!」
花太郎は満面の笑みを浮かべて荻堂の手を握った。荻堂は予約の時間と店の名前と場所をさらさらと紙に書き付けると花太郎に手渡した。花太郎は荻堂の話を聞きながらも手を動かして,すっかり詰め終えた薬嚢を集めてまとめると荻堂に何度も礼を言うと執務室を出て行った。




その後ろ姿が見えなくなると荻堂のそばに音もなく長身痩躯の男が現れた。
銀髪の死神,三番隊隊長市丸ギンであった。ギンはしれっとして立っている荻堂を面白そうに見やった。
「ふん・・・意外と役者やねぇ,荻堂。あのうつけ者,まんまと罠にかかりよった。」
「人聞きが悪いですね,市丸隊長。僕は隊長に言われたから致し方なく・・・」
「よう言うわ。ほんま四番隊の『黒いいたずら心』の異名は伊達やないね。」
「写真は僕にも見せてくださいよ。」
「ふん,考えとくわ・・・と言いたいところやけど君みたいな油断ならん奴に大事なルキアちゃんの写っとる写真は見せられんね。」
「ひどいなあ。したくもない,いたずらの片棒担いだのに・・・」
「とにかく礼は別口でさせてもらう。ほなな。」
言うが早いが,ギンは荻堂の前から瞬歩で消えた。その姿を見届けると荻堂はうっすらと笑い電信霊機を取り上げ,どこやらに連絡を取り始めた。




ルキアとのデート(?)当日,花太郎は荻堂の書いてくれた住所を頼りに貸衣装屋『華衣』の前でうろうろしていた。荻堂が予約を入れてくれたとは言え,こういう店に入るのは初めてなので何とも気恥ずかしくてぐずぐずとためらっていると,この店の店員らしき女が花太郎の姿を目にとめた。
「失礼ですが,山田様でいらっしゃいますか?」
突然,話しかけられ花太郎は仰天して飛び上がった。
「はっ,はいいいいっ!!やっ,山田です!」
「ご予約承って居りますよ。お入りください。」
女はにっこりと笑うと花太郎を促し店内に導く。店内にはたくさんの色とりどりの着物,帯,小物,現世の洋服まで各種取りそろえられている。
驚いたことに看護師,キャビンアテンダント,婦人警官などのコスプレ衣装やルキアが喜びそうなうさぎの着ぐるみまで並んでいる。花太郎は見知らぬトワイライトゾーンに入りこんでしまったような気がしてきょときょとと視線をめぐらせた。
「荻堂様から承っております。こちらにどうぞ。」
花太郎は女に導かれるままに試着室へと入って行った。




半時後・・・
「これはいったいどお言うことですかああああああ―――――っ!!!!???」
試着室から花太郎の絶叫が響いた。それもそのはず今鏡の前に映る自分の姿は,およそ花太郎が望んでいたものとはかけ離れた姿・・
緋色の着物に金糸銀糸で刺繍された豪華絢爛な御所車に色とりどりの花々が描かれ,蝶の形に結ばれた帯は金色,結び目に七色の飾り紐がアクセントに飾られている。耳を隠す程度の長さしかない髪はうまく整髪料で固めて結い上げられ,金の飾りのついた赤珊瑚の玉簪で留められている。しかもご丁寧に薄化粧までされてしまっていた。
着付けをし,衣装を整えた店の店員たちがおろおろと花太郎を見た。
「お客様,何かお気に障りましたか?不手際でも?」
「気に障るも何も,僕は男ですよ!!この格好ってどう見たって女の子じゃないですか!!」
途中でおかしいなと思いながらも,荻堂が自分を担ぐとは夢にも思っていなかった花太郎は抗議しそびれてしまったのだ。それにしても,ここまでされるがままになってしまった自分の性格が恨めしい。
「この衣装を用意させたのも荻堂君ですか?」
「いいえ,衣装のご指示は確か市丸様と言う方で・・・」



花太郎は激しい目眩に襲われ,倒れかかるのを慌てた女店員に危うく支えられ,かろうじてこらえた。
今日のルキアとのデートはギンに筒抜けであったらしい。少しでも男らしい姿でルキアとデートしたいと言う花太郎の願いはギンによって,木端微塵にされてしまった。
こうなったら死覇装でもなんでもいい早くこの仮装を脱いで,ルキアのもとに行かなければ・・・
「と,とにかく早くこれ脱がしてください!!僕この後大事な用事が!!」
花太郎が悲鳴のような声をあげた時,
「山田様,ご面会の方がいらしておりますが。」
「えっ?」
驚いて振り向いた瞬間,今最も会いたくなかった人物が立っているのを見て,花太郎は目の前が真っ暗になった。
甘味屋で待ち合わせのはずのルキアが唖然として,目の前に立っていたのだ。
あまりの絶望に失神しそうになるのを,なけなしの根性を総動員して花太郎はルキアに向かって口を開いた。
「あ,あの,ルキアさんこれには深いわけが・・・僕,その・・・」



「・・・・・か,可愛い♪」



呆然としていたルキアの顔が笑顔に変わった。
「へ・・・・!?」
今度は花太郎が唖然とする番であった。ルキアはにこにこと笑いながら花太郎に近づきしげしげと花太郎の全身を眺めた。 なんだかわからないがルキアは自分の恰好が気に入ったようだ。しかしお人形さんのようだと言えばルキアの方こそであった。
濃藍色の着物に白と緋色の牡丹が咲く小袖の着物に,緋色に金糸の刺繍の入った帯を締め,藤の花に銀の葉が縁取られた飾り簪を挿したルキアは息をのむほど美しく,花太郎は見とれてしまいそうになる。
「ルキアさんの方がずっと綺麗ですよ。こんなにお洒落してきてくださるなんて嬉しいです。」
「えっ?この格好はおまえの指示ではなかったのか?今日荻堂殿からおまえからの伝言を預かったということで,待ち合わせ場所の変更と着ていく着物の指示を受けたのだ。それで,この格好でここまで来たのだが・・・?」
「荻堂君が?」
不審げな顔の花太郎と困惑顔のルキアの姿を店の者たちはため息をついて眺めていた。並んで立つ二人はまるで赤と青の対人形のように艶やかで美しかったのだ。
そこへ店の主人らしい男が二人のそばに近寄って来た。
「お嬢様がた,お二人せっかくですから今日の思い出に写真をお撮りになりませんか?」
「私は構わぬが,おまえはどうだ,花太郎?」
ルキアは花太郎を見ながら言った。
「ル,ルキアさんさえよければ喜んで!」
ルキアとの憧れのツーショット写真,自分がこんな恰好であるのはなんだが,花太郎に異議などあろうはずがなかった。
カメラの前でルキアと寄り添って立つ花太郎は夢のように幸せであった。
出来あがった写真はどこからどう見ても美少女二人のツーショットであったが,花太郎は写真を胸に抱きしめてルキアに礼を言った。
「ルキアさん,僕,最高に嬉しいです。一生の宝物にします。」
もう,荻堂やギンにされたいたずらなど,どうでもよかった。大好きな女の子と二人で写真を撮れたのだ。むしろ二人に感謝したい気持でいっぱいだった。
「うむ,なかなかよく撮れておるな。私も大切にするよ。」
ルキアの笑顔に,花太郎も泣きそうになりながらも笑顔で答える。自分と写った写真をルキアが大切にしてくれる,ルキアの思い出の中に形となって残ることができるのだ。
花太郎は今のこの瞬間を,決して忘れないと胸にそっと誓った。




店に飾らせてほしいという店側の申し出を丁重に断って二人は貸衣装屋を後にした。
二人並んで歩きながらルキアは笑いながら花太郎に話しかけた。
「あそこは,なかなか面白い店だな。チャッピーの着ぐるみまであったぞ!」
どうやらルキアはいたくあの店が気に入ったようである。化粧を落とし死覇装に着替えた花太郎は眩しげにルキアを見つめながら答える。
「僕も初めてのお店なものですから,よくわからないですけど色々面白いものがありましたね。」
「では,今度は私がチャッピーの着ぐるみを着るから,花太郎,おまえはくまの着ぐるみを着て写真を撮ろう!」
「ええっ!?」
「いやか?おまえとならとても可愛い写真になると思うのだが・・・」
「いえっ,そんな,喜んで!いつだってお付き合いします!!」
「そうか,約束だぞ!」
ルキアと次のデート(?)の約束までしてもらい,花太郎は天にも昇る気持ちになった。と同時に,一生分の運を使い切ってしまったのではないかと思いながら,最高に幸せな笑顔で,花太郎は楽しげに笑うルキアに従って歩いて行った。








二人の姿が見えなくなると,貸衣装屋の前に今回のいたずらの首謀者二人組,市丸ギンと荻堂春信が現れた。
「思惑が外れましたね。市丸隊長。」
荻堂の言葉にギンは苦笑する。女装の花太郎の姿をルキアに見せて大恥をかかせた上に,ルキアを連れ去る算段だったのだがギンの思惑は完全に外れてしまった。
「ルキアちゃんが可愛いもの好きや言うことを忘れていたわ。それにしても,あのうつけ,女装がよう似合うてたな。」
ギンは先程ルキアと並んで立った花太郎の女装姿を思い出して,くくくと嗤った。
「あのまま行かせて,よろしかったんですか?」
いつものギンならルキアと他の男とのデートなど断じて許さず,有無を言わさずルキアを攫って行くはずなのだが・・・
「ふん,邪念のない,あのうつけ者が相手やと,どうにも調子狂うわ。まあ,今日のところは堪忍しといたる。ルキアちゃん,ボクに内緒で贈り物選びたいみたいやしな。」
「ふーん。まあ,いいですけどね。それじゃあ僕はこれで失礼します。」
「待ちぃ,荻堂。」
行き過ぎようとする荻堂をギンは鋭く呼びとめた。
「なんですか?」
「さっき隠し撮りさせたルキアちゃんの写真,ネガも一緒に寄越しぃ。」
「あらら,ばれてたんですかぁ?」
荻堂は大人しく懐から写真とネガを取り出してギンに渡した。
「君がボクのために,ただ働きするとは思えんからね。ルキアちゃんの写真,大量コピーして売りさばく腹やったんやろ。」



そう荻堂は男性死神協会の幹部,常に女性死神協会に協会資金のほとんどを奪われている現状を打開するための資金源にルキアの盛装ブロマイドを売り出そうと目論んでいたのである。何しろ女性死神協会から売り出されているルキアのカレンダーは,常に完売状態で女性死神協会の有力な資金源となっているのだから。
「やれやれ,ばれていましたとは。」
「これ以上,可愛いルキアちゃんを狼どもの目に晒してたまるかいな。まあ,これで用はすんだわ。ボクは帰るわ。」
ギンは写真とネガを受け取ると,たちまち瞬歩を使って荻堂の前から消えた。
おそらくルキアと花太郎のあとを追って行ったのだろう。堪忍してやるとは言っていたが,最終的にはルキアを攫って行くに違いない。結局,相手が花太郎であろうとギンの嫉妬は変わらないのである。
「変なところでわかりやすい人だなあ・・・。」
荻堂はギンが消えたあとをしばらく見やりながらひとりごちた。
「さて,これで朽木さんの写真は使えなくなったから,こうなった以上,山田七席に頑張ってもらうしかないですね。」
荻堂は悪い笑みを浮かべながら懐から,写真とネガを取り出す。そこには隠し撮りされた女装姿の花太郎の姿があった。




かくして,大量に売り出された山田花太郎女装ブロマイドは何故か結構好評で,大いに男性死神協会の資金源確保に貢献したということである。








後日談――貸衣装屋『華衣』で小柄なうさぎと,くまのツーショット写真になぜか長身のきつねの着ぐるみが乱入するというパネルが飾られ,それが話題を呼び『華衣』の客足を大いに増やしたということである。










花太郎が…花太郎が不憫だww(爆笑)密かに好きなブラック荻堂も絡んでいて、どこを読んでも美味しい!!
それにしても盛装のルキアが目に浮かぶようです…うっとり。kokuriko様ありがとうございます!

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